ローズマリー・ギブソン
「医療事故において医療メディエーションが担う役割はあるか」をめぐって
(『週刊医学界新聞』 第2939号掲載)
医療メディエーションについて触れた標記の論稿が『医学界新聞』に掲載されました。
http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02939_03
そこで示された「医療事故後の対応において前提とされるべき重要な理念」は、まさに我が国で広がりつつある医療メディエーションの理念と軌を一にするものであり、常に医療メディエーションの教育・実践において強調されているものとまったく同じです。我々の医療メディエーションの理念の再確認に有益で有り、皆さんにも共有していただきたいと思います。
そこで強調されているのは下記のような諸点です。
・明らかになった事実は担当医あるいは責任者が伝える
・メディエーターが代理したり肩代わりするのでない
・その場限りの対応で終わらせない
・家族・患者は継続的なケアを必要としている
・医療者自身にもまた,癒しが必要
・誠実な対応のみが患者家族・医療者双方にとって癒やしとなる
・解決を急がず,継続的な会話を
これらは、まさに我が国で展開されつつある医療メディエーションの理念と実践の描写そのものであり、医療メディエーションを推進しつつある者として、非常に勇気づけられる論稿であるといえます。
医療メディエーションの研修を受けた方はもちろん、その解説記事などを読んだ方なら、誰でも、ローズマリー・ギブソン氏の考えるあるべき理念を具体化するモデルこそ、我々の医療メディエーションであり、常にメディエーター役割の目標理念として強調されている点であることは一読しておわかりかと思います。
残念なのは、著者が日本の医療メディエーションの理念やモデルをご存知でなく、アメリカ的な発想で、単純に「患者と医療者の間に割って入り肩代わりする存在」であるかのように捉えておられる点です。これは、我が国の医療メディエーターの働きとはまったく異なることは言うまでもなく、むしろ最悪の関わり方として否定されているものです。
我が国の医療メディエーションは、この著者が推奨する「患者家族対応の理念」を、まさに現場で体現すべく、現場の医療者・患者・被害者の方々の指摘を参考に、独自に工夫され練り上げられてきたまったく新たな倫理的考え方であり、モデルです。海外に比肩するもののない、この論稿で示されたこと以上に、精緻で微細な倫理的配慮を伴う独自のモデルとしてそれは成長してきています。
この点を除けば、著者の示す患者家族対応の理念は、日本の医療メディエーションの理念そのものであり、今後の医療メディエーションのいっそうの推進のための力強い応援にほかなりません。今後も、我々としては、この理念を医療現場に広げるべく、努力を重ねていきたいと思います。
日本医療メディエーター協会