Mの約束

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医療メディエーター(医療対話仲介者)の約束・行動倫理

前提となる定義を正しく理解しましょう!

院内医療メディエーションとは: 医療メディエーションとは、患者と医療者の対話の促進を通じて、情報共有を進め、認知齟齬(認知的コンフリクト)の予防、調整を支援する関係調整モデル。医療の基盤をなす対話促進のソフトウェアとして、医療行為の一部を構成する。

院内医療メディエーター(医療対話仲介者)とは:医療メディエーター(医療対話仲介者)とは、患者と医療者双方の語りを、いずれにも偏らない位置で、共感的に受け止め、自身の見解や評価・判断を示すことなく、当事者同士の対話の促進を通じて、情報共有を進め、認知齟齬(認知的コンフリクト)の予防、調整を支援する役割を担う人材である。

院内医療メディエーションのエッセンス

1)医療メディエーションは医療の基礎をなす対話と情報共有のモデルである。
2)医療メディエーションの主役は、当事者である患者と医療者。メディエーターは慮者を尊重し、
  傾聴し、対話を促す。評価や判断はしない。
3)医療メディエーションの目標は、「解決」ではなく、患者と医療者の関係構築である。法的権利・
  賠償等の紛争解決には関与しない。
4)医療メディエーターは構造的中立性でなく、信頼に基づく不偏性を保つ。院内医療メディエーター
  は、中立性を標榜してはならない。

医療メディエーター(医療対話仲介者)の約束・行動倫理

1)医療メディエーターの約束1─伝言的仲介でなく直接対話を促進させる
 まず、メディエーターの役割の理念となるのは,ミルトン・メイヤロフが定義したケアの理念です.すなわち,「その人がその人自身であることを支えること」であり,第三者が当事者に何かを「してあげること」ではありません.メディエーターが行うのは,あくまでも,当事者が自分自身で問題を乗り越える,その基盤となる支援にほかなりません.「何かを提供する」支援ではなく,「何かをその人自身が自分の中から引き出すこと」への支援です.答えは第三者の中にあるのではなく,常に当事者自身の中にあります.
 それゆえ、医療メディエーターは,患者と医療者が直接向き合う対話の場を設定し,対話を促進することがその役割でなければなりません.患者の訴えを聴いて医療者に伝えたり,医療者の言い分を患者に伝えたり,そのような伝言による間接的な仲介は、原則として、してはなりません.メディエーターは,患者と医療者という当事者が,直接向き合って自分たちで関係を調整し,問題を克服していくのを偏りなく支えるだけです.当事者しか問題を克服することはできないのです.
 患者は医療者との直接の対話を求め,その対応によってこそ納得ができるのであって,医療メディエーターが医師や病院の代弁をしたのでは受け入れられるはずもありません.そもそも,医師や病院の代弁をする者を医療メディエーターとよぶことはできません.医療メディエーターがいれば,トラブルはすべて任せられ,医師は患者との話し合いに出なくてもよくなると考えている人がいるとすれば大きな間違いです.
むしろ逆なのです.医療メディエーターは,患者と医療者とが向き合って直接対話する場を設定し,対話を促進します.問題を克服できるのは当事者だけであり,その当事者を尊重し支えるというケアの理念をもつメディエーターであれば当然のことです.
 また,間接的な伝言仲介は,誤解や齟齬を生むリスクを何倍にも増やしますし,最悪の場合には情報操作のリスクさえあります.患者と医療者が直接向き合う場を創るため,間接的な伝言や代弁は控えるというのが医療メディエーターの第1の約束です.

2)医療メディエーターの約束2─判断・評価・意見の表明や提案はしない
 また、メディエーターは,あくまでも当事者の対話による問題克服を支援する役割ですから,自分の意見や見解の表明、評価や判断の提示などは決してしてはなりません。たとえば,「事故は不可抗力によるもので過失はないと考えている」といった事故原因の説明,「事故を生かして今後○○の医療安全対策をしていきます」といった改善案の提示,「賠償としては1000万円お支払いしようと考えています」といった賠償や法的評価の提示などは,いっさい行ってはなりません.これらは,病院側の当事者である医師,事務担当者,顧問弁護士などが,それぞれ患者と向き合って説明するものであり,医療メディエーターは,対話のいかなる場面でもこうした発言はしてはなりません.
 その根拠は,第1に,そのような発言は簡単なものでもあっても,いずれかの当事者に何かをしてあげることになり,患者と医療者の当事者自身による問題克服を尊重するメディエーターのケアの理念に反することになります.
 第2に,医療メディエーターは,病院の職員であるからこそ,そのような中身に踏み込んだ発言をしてはならないのです.そうした発言は,病院側に立つことになったり,患者側に立つことになったりして,いずれにしてもメディエーターの役割理念および不偏性を損なうことになります.
 第3に,患者側ないし医療者側に,そうした発言は友好的発言や敵対的発言であると認識されることになり,メディエーターへの信頼が失われ,メディエーションの場が崩れてしまうことになります.

3)医療メディエーターの約束3─解決ではなく,情報共有と関係構築を目的とする
 これも,「問題を克服できるのは当事者だけである」というケアの理念に基づくメディエーターの役割理念から必然的に出てくることです.問題を克服していくこと(医療事故では本来,100%の解決はありえないと思いますが),それは当事者が達成し決めることであって,メディエーターの目的ではありません.メディエーターが問題を解決しようなどと考えると,ついつい意見を表明したり,提案を行ったりして,メディエーターの理念に反してしまい,結果として対話が進まなくなってしまいます.医療メディエーションの目標は先にも述べたように、関係の再構築です。メディエーターの目的は、「つなぐこと」であって、「解決すること」ではないのです。
 先にも述べたように、メディエーターは,あくまでもケアの理念を基盤に,患者と医療者の情報共有による関係構築を支援することを目標と考えねばなりません.メディエーターの支援によって,深い情報共有がなされ、関係が構築されていけば,自然に,患者と医療者との間で,問題が克服されていく可能性が開けてくるはずです.直接,医療者に向き合い,そして真摯な対応を受けることで初めて,患者も問題を乗り越えていけるのだということを忘れてはなりません.メディエーターはあくまでも黒子の役割に徹しなければならないのです.

4)医療メディエーターの約束4─分け隔てのないケアの姿勢で心を聴く
 メディエーターは、分け隔てのないケアの姿勢を基礎としています。事故や出来事に関わって傷ついているすべての人(患者だけでなく事故に関わった医療者も含む)に、分け隔てなくケアする姿勢が、何よりも大切なのです。これがメディエーターの関わりに偏りのない姿勢という意味での不偏性をもたらします。この姿勢があれば、構造上は中立でなくとも、患者側との間でも、メディエーターへの信頼が構築され、第三者的な位置での支援のかかわりが受容されるようになります。また、医療者側にも、同様のケア・マインドを持って接しなければなりません。メディエーターが患者側だけに共感的な対応をしていると、医療者側は閉じて防御的になってしまいます。事故に関わったり、苦情を向けられた医療者側に対してもケアの姿勢で共感的に受け止めていかねばならないのです。
 メディエーションの過程で、メディエーターは患者や医療者の「言葉でなく心を聴く」姿勢の中で、その深い想いを見つめ、互いに表層の対立の背景にある何かに気づくことを支援していくのです。そのために、メディエーター自身、患者や医療者の深い想いに気づき、寄り添うセンスとマインドを身につけていなければなりません。そうした姿勢が身についたとき、はじめて「スキル(技法)」が「ウィル(姿勢)」の真の反映として表れてきます。マニュアル的な技術でなく、「姿勢」の発現としての「スキル」とは何かについて、適切な教育研修を受ける中で、メディエーターは体感的に理解し、その姿勢の涵養に努めなくてはなりません。そうした姿勢こそ医療メディエーターへの信頼の糧となるのです。